トップページへ戻る       ものに関わってのメニューへ戻る


抜けなくなったスパイクのピン

中体連大会の前日、帰ろうとしていたら野球部の若い監督先生がやってきた。
手にしているのは、ピンのすり減った古い野球のスパイク。
明日の試合を前に、スタメンの生徒のスパイクがあまりに減っているので、持ってきたという。

聞けば、いつも廊下で会えば向こうからきちんと目を見て大きな声で挨拶をする生徒のものだった。
彼は、母子家庭と言うこともあって経済的に厳しいので、こんなになっても新しいのを買うことができないのだとか。
しかもこのスパイクも先輩のお下がりらしい。

若い先生は自分で新しいピンを買ってやって取り替えようとしたのだが、ピンを固定してるネジがとれないのだという。

まさに、この状態を何とかしてやらなければ技術・家庭科教師の名が廃るような状況だった。


これが、すり減ったスパイクピン。本来のボルトを外すための工具は力に負けてえぐれてしまっていた。
大きなウォーターポンププライヤで回そうとしてもびくともしない。
とりあえず、浸透性のオイルスプレーをかけてから作業する。

電動ドライバ用のナットビットを使おうとしたが、このボルトはかなり薄くできているので、入り口の面取り部分で逃げてしまう。
そこで、両頭グラインダーでその部分を削り落としてみた。


それを電動ドリルドライバに取り付けて使ってみる。
ドライバ用のセッティングでは空回りしてだめだったが、ドリルモードにしたらうまいこと外れた。


外れたピンとシューズ。
しかし、こちらはよかったが、最初に若い先生が自分でやった方はボルトの頭をなめてしまっており、ソケットが滑ってしまった。


どうしてもだめなので、発想を変えて頭をグラインダーで落として取り外すことにした。


というのも、ボルトの方は消耗品と言うことでスパイクピンに同梱されていたため。
しかし、靴に埋め込まれているナットは予備がない。なんとかはまり込んだボルトのネジ部を取り出さなければならない。
ネジ自体もピッチがかなり細かいもので、普通のメートルネジに置き換えるわけにはいかなかった。


とりあえず、また潤滑剤をスプレーする。その後、ボール盤で穴を開けることにした。


2.5mm、3.2mm、4.2mmと段階的にあけていき、少し出っ張ったところを弓のこで刻んでからマイナスドライバーでこじってみたら・・

何とか抜き取ることができた。

もう一つも、同じ方法でやったが、こちらの方がなかなか抜けず、下敷きの木に逃げる分の穴を開けてからきちんと安定させた上で、ボルトの内側ぎりぎりのドリルを使って穴を開けたら、うまく外すことができた。(少しネジの山を削ってしまったものの、はめてみたらしっかり固定できた)


というわけで、1時間と少しで交換することができた。実際にはかかと側を留める3本のナットのうち、一番かかと側の1本がネジ部を取り出せなかったので、固定できなかった。それでも両側の2本でしっかり固定することができ、手打ちとなった。
明日は、新しいスパイクピンで活躍し、勝利を手にしてくれるといいなぁ。
もちろん、急にグリップのあがったシューズで怪我をしないのが第一だ。


中体連当日、慰労会の後に追記。
 今日の大会で、この持ち主は勝ち越しのランニングホームラン(ライトヒットを野手がハンブルしている間にホームまで)を打ってチームの勝利を決めてくれたと、監督から慰労会の席での報告会で発表があった。
 ピンがきちんとないスパイクのままだったら、おそらく3塁まででストップがかかっていただろうとのこと。

 こんなこと教員人生の中ならず、ものに携わる人の人生の中でもそうあることではあるまい。
 昨日相談を受けたときに、だめ出しをしたり、途中であきらめたりしなくて本当によかった。
 自分ではこの出来事を、一生忘れないことでしょう。



トップページへ戻る       ものに関わってのメニューへ戻る